月は昇りぬ  Der Mond ist aufgegangen

ドイツのヒルデおばあちゃんの思い出話を綴っています。

ヒルデおばあちゃん

f:id:ritsukoguenther:20161022063136j:plain

これはヒルデガルドおばあちゃん。当時96歳。下を噛みそうななので、ヒルデおばあちゃんとしよう。

2008年に98歳で亡くなったヒルデおばあちゃんは、私の夫の母の母、つまり私の姑の母親、つまり私の娘たちの曾祖母。ユーモアにあふれ、歌と踊りが大好きなチャーミングなおばあちゃんだった。

この写真のように、テレビでサッカーのワールドカップの観戦中も、ドイツ国旗を振り続けて熱烈に応援するかわいい女性であった。ちなみにサッカーのルールは全く知らないようだった。

しょっちゅう我が家に泊まりに来ては、日がな一日しゃべっていた。昔の話をするのが好きなおばあちゃんと、昔の話を聞くのが好きな孫の嫁。気が合わないはずはなく、「特別に」びっくりするような話も聞くことができた。

彼女の壮絶な引き揚げ体験談は、手書きの自伝を読んで知ってはいたが、直接語る数々のエピソードは、より生々しくて強烈で、悲しく切なく、そしてどこかほのかにコミカルで優しいのだった。

どのような状況下にあってもユーモアを忘れずにいられる人はそういない。

幼い子供を三人も引き連れて着の身着のままソ連軍から命からがら逃げてきたヒルデおばあちゃんは、当時34歳だった。

今はこうして笑い、歌い、踊る楽しいおばあちゃんだが、当時はなんと強靭な精神力を持っていたのだろう。

母は強し。

「おばあちゃん、こんなすごい話、私だけ聞くなんてもったいないわ。」

おばあちゃんはちょっと得意げに鼻をふくらませて、

「だったらいつか日本でもみんなに話してあげて。」

と微笑んだ。

約束してから8年も経過してしまった。おばあちゃん、遅くなってごめんね。

ヒルデおばあちゃんとの時間は温かく、今でも私の胸の中で散りばめられた星のようにチラチラ輝いている。

ここで少しずつ、彼女の話を紡いでいこうと思う。

ちなみにこのブログのタイトルの「月は昇りぬ」は、おばあちゃんが大好きだったドイツの童謡「Der Mond ist aufgegangen...」の和訳である。この美しい叙情的な歌は、極寒の旅路を暖かく包み込む月明かりそのものだったそうだ。